最高裁の「タトゥー(入れ墨)無罪判決」とその後
なぜアートメイクが美容医療行為とされてしまうのか!
彫師としてタトゥーメイクを行うなら美容医療にならない論理
令和2年9月16日、最高裁判所・第二小法廷は、彫師・増田太輝に対する医師法違反事件について、平成30年11月14日に大阪高等裁判所が言い渡した無罪判決に対し、検察官から上告の申し立てがあったことを受け、次の通り決定した。
【主文】本件上告を棄却する。
これにより、平成30年(あ)第1790号医師法違反被告事件における無罪が確定した。この最高裁の決定は、刑事訴訟法第424条および第386条第1項第3号に基づき、裁判官全員一致の意見によるものであった。
つまり、医師法第17条(「医師でなければ医療行為をしてはならない」)に違反したとされた彫師の行為について、大阪高裁が下した無罪判決が、そのまま確定したということになる。西田裁判長が下したこの大阪高裁の無罪判決は、これまで医師法違反容疑で逮捕・起訴され、有罪判決を受けていた美容エステやアートメイク、タトゥーなど一連の事案において、初めて無罪が言い渡された画期的な判断であり、「やっとまともな判断が下された」と感じさせる内容であった。
ところが、驚くべきことに、大阪高裁の判決文には、タトゥー施術を無罪とする一方で、アートメイクに対しては、「アートメイクの多くの事例には、シミ、ヤケドなどを目立たなくするという行為があり、これは美容医療の範疇といえる」との記述があり、アートメイクは美容医療であるという認識が残されてしまった。
タトゥー医師法違反容疑の裁判を担当した西田裁判長が、なぜわざわざアートメイクについて「美容医療の範疇といえる」と記述したのかは不明である。当時、弁護団も「審理中にアートメイクに関しては言及していない。にもかかわらず、なぜ判決文にアートメイクが美容医療の範疇とされる記述が加えられたのか理解できない」としている。通常のアートメイクでは、眉の形を整えるのが主な施術であり、シミやヤケドなどを目立たなくする施術はほとんど行われていない。また、アートメイクはタトゥーに比べて施術が軽微で安全性が高く、注入された色素も数年で自然に薄くなったり消えたりする程度である。
一方で、タトゥー施術は、体のあらゆる部位に対し、様々な色素を用いて消えることのない意匠を施すものである。顔面や頭皮に施術されることもあり、保健衛生上のリスクや人体への危険性もタトゥーの方がはるかに高く、アートメイクとは比較にならない。こうしたアートメイクの実態を西田裁判長がもう少し正確に理解していれば、アートメイクを美容医療とするような記述は加えなかったのではないかと考えられる。
タトゥー行為については、「針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を注入する行為」と定義され、この行為が医師法違反に当たるかどうかが裁判の争点となった。そしてアートメイクも、その技術的手法はタトゥーと全く同じである。そのタトゥー行為が無罪となったのであれば、当然アートメイクも無罪とされるべきである。それにもかかわらず、西田裁判長は「アートメイクの多くの事例には、シミやヤケドなどを目立たなくする行為があり、これは美容医療の範疇である」との記述を付け加えている。
しかし実際には、通常のアートメイクにおいて、シミやヤケドを目立たなくする施術はほとんど行われていない。それにもかかわらず、なぜこのような記述が判決文に加えられたのか。その理由を検証してみたい。医師法違反事件で有罪の根拠とされることが多いのが、厚生労働省医事課課長による通達である。大阪高等裁判所の西田裁判長も、タトゥー無罪判決を下すにあたり、過去に出された厚生労働省医事課課長の通達を検証したものと推察される。
(※関連記事では、これまでのアートメイクに関する厚生労働省通達について詳述している)
アートメイクの現在-2 に続く
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