アートメイクの現在-3 これまでなぜアートメイクが問題視されてきたのか

2025.06.15

 

これまでなぜアートメイクが問題視されてきたのか

 

アートメイクに関する照会と医事課 課長通達を振り返る!

 

「針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為」——この行為は、タトゥーもアートメイクも本質的には同じである。この行為の医師法違反容疑について、最高裁判所が無罪判決を下し、医師法違反には当たらないことが確定した。

にもかかわらず、同じ行為であるはずのタトゥー施術が医師法違反ではなく、アートメイクが美容医療の範疇とされるのはなぜか。この点については、タトゥー施術を無罪とした大阪高裁の判決文中に「アートメイクの多くの事例には、シミ、ヤケドなどを目立たなくするという行為があり、美容医療の範疇と言える」と記述があり、タトゥー施術とは区別される形となっている。タトゥー裁判を担当した弁護団も「アートメイクに関しては言及していないので、何故その文面が付け加えられたのか不明」としている。

ところが、アートメイクに関する過去の警視庁からの照会と、厚生労働省医事課課長による通達の内容を調べると、大阪高裁の裁判長がこの文面を加えた背景が見えてくる。アートメイクに関する厚生労働省医事課課長の通達は過去に複数回出されており、その中でも最新のものが、現時点における厚生労働省の公式見解とされている。

 

 

平成元年6月7日、医事第35号

 

平成元年、厚生省健康政策局医事課課長は、「アートメイクの医師法上の疑義について」という警視庁からの照会に対して、平成元年6月7日、医事第35号において次のような回答を出している。

 

〔照会〕

顔面にあるシミ・ホクロ・あざなどの部分の皮膚に肌色等の色素を注入するに際して

(1) 問診を行い、その結果をカルテに記入し、

(2) シミ部分等に麻酔薬(製品名キシロカイン)により塗布または注射の方法で局部麻酔したあと

(3) シミ等の部分の皮膚に針(縫針等をスティック棒に差し込んで、接着剤で固定して作ったもの又は電気紋眉器)によって相当時間反復して刺すことにより色素を注入し(その際出血を拭き取りながら行う)、又は直接、注射器で液体色素を注入するなどの行為をなすことは医師法第十七条の医業行為に該当するか。

〔回答〕
御貴見のとおりである(医業に該当する)。

 

このように、「シミ・ホクロ・あざなどの部分に局部麻酔を施したうえで、縫い針や電気紋器を使い、出血を拭き取りながら相当時間にわたって色素を注入する、あるいは注射器で液体色素を直接注入する」といった行為が医業に該当するかという質問を厚生労働省医事課課長に行えば、当然のごとく「医業に該当する」との回答が出される。

これは、通常のアートメイクではあり得ない施術行為を意図的に例示し、医師法違反の疑いへと誘導した悪意ある照会内容といえる。

つまり、最初からその結論を引き出すことを目的に構成された照会であり、アートメイクを医師法違反と位置づけるために、厚生労働省医事課課長の通知を出させたと見ることができる。

大阪高裁の西田裁判長は、警視庁からの、この照会文書を参照して「アートメイクは美容医療の範疇といえる」と判断したものと思われる。

平成元年当時は、アートメイクに関するトラブルや消費者被害が多発しており、それを取り締まるために、医師法違反容疑を適用し、有罪にする動きがあった。タトゥーも同様の施術でもあるにもかかわらず、取り締まりの対象にはならなかった。それは、タトゥーによるトラブルや被害届がほとんどなく、アートメイクだけが問題視されていたからである。

 

平成12年6月9日、医事第59号

 

平成12年、厚生省健康政策局医事課課長は、警視庁生活安全局生活環境課長からのアートメイクに関する照会において、次のような回答を出している。

 

〔照会〕

医師免許のないエステサロン従業員が、来店した患者に問診する等して眉、アイラインの形をアイブロウペンシルで整えた後、患者を施術台に寝かせ、電動式のアートマシンに縫い針用の針を取りつけたアートメイク器具を使用して、針先に色素をつけながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為をした後、患部をアイスゲールで冷やし、更に鎮静効果のあるキシロカイン等の薬剤、化膿止め薬剤を患部に塗布している。

非医師である従業員が、電動式アートメイク器具を使用して皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為は医師法に規定する医業行為に抵触すると解してよいか。

〔回答〕
御照会の行為を業として行えば医業に該当する。

 

ここでも照会内容に、「患者」「鎮静薬・化膿止め薬剤の使用」などの医療的要素が盛り込まれ、医業行為に抵触するかと質問し、医師法違反に当たるという回答を引き出していると言える。

 

 

平成13年11月8日、医政医発第105号

平成13年に出された厚生労働省医事課課長の通達は、平成12年に出された厚生省健康政策局医事課課長の通達を、再度徹底して医師法違反に当たるので、国民への危害発生を未然に防止するため通知したものである。

この通達では、アートメイクの行為を「針先に色素をつけながら、墨等の色素を入れる行為」と規定しており、アートメイクだけではなく、タトゥー施術についても含めて、医師法違反に該当するとしている。

大阪高裁や最高裁において証拠として扱われたのは、この「医政医発第105号」であった。そして最終的に、この通達内容が裁判で覆され、無罪と判断されたのである。

 

 

アートメイクの現在-4  に続く

≪関連記事≫

アートメイクの現在-1   最高裁の「タトゥー(入れ墨)無罪判決」とその後

アートメイクの現在-2 最高裁の「タトゥー施術 医師法違反容疑無罪判決」以後

 

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