ハワイ解剖実習レポート ~ファシアと筋膜の本質に迫る3日間~(豊林 由美子)

1.実習概要
期間:2025年9月16日~18日
場所:Hawaii Medical Research Center(ホノルル)
講師:奥野幸彦先生(外科・形成外科医)/大澤訓永先生(医学修士・治療家・研究者)
主催:解剖実習アカデミー運営会社(株)ckプランニング
テーマ:「ファシアと筋膜の理解を深める」
2.背景
近年、エステティックの現場では「筋膜リリース」「筋膜はがし」といった技術が多く取り入れられているが、その構造や役割については、まだ表層的な理解にとどまっているケースが少なくない。
今回参加したホルマリン処理を行っていない人体の解剖実習は、教科書や理論だけでは得られない「リアルな人体構造の理解」を深める貴重な機会となった。
3.実習内容と学び
【Day 1】背面の構造
初日は背面の解剖を通じ、皮膚・皮下組織の奥に広がるファシア(Fascia)の存在を確認した。
筋肉の表層だけでなく、骨膜や神経、臓器にまで連続しているこの結合組織は、人体を一つのユニットとしてつなぎ、張力のネットワークを形成していることが明確に理解できた。
【Day 2】前面の構造
前面では筋肉の走行とともに、筋膜がどのように腱や腱膜へと連続し、縦・横・斜めに重層しているかを観察。
筋膜は単独の膜ではなく、ファシアの一部として存在し、立体的なつながりをもって全身へと広がっていることが確認された。
【Day 3】胸部・腹部・頭部
臓器周囲や頭頸部では、ファシアが神経・血管・内臓を包み込み、構造的な支持・保護・伝達の役割を担っていることがわかった。
特に呼吸運動との関係が深く、ファシアの柔軟性が自律神経系の安定にも寄与している点が印象的だった。最大の学びは、「筋膜はファシアの一部である」という事実である。
4.本実習で得た最も大きな気づき
ファシアは単なる筋肉の“包み”ではなく、全身の構造と機能をつなぐ結合組織のネットワークであり、筋膜はその一領域にすぎない。
5.エステティックへの応用と考察
現在のエステ業界では、筋膜リリースの名のもとに強い圧力を加える手技が主流となっているものもある。
しかし、深部の癒着や柔軟性の制限は、外部からの強い力では深部に届かないことが解剖レベルで確認された。癒着の主な原因は、同じ姿勢や圧力等による過度な緊張や血流の滞りであり、これは交感神経の過活動と密接に関係している。
したがって、エステ施術においても「強い刺激で剥がす」のではなく、自律神経を整え、呼吸を深く導くアプローチを取り入れることが、ファシアの柔軟性回復と癒着の緩和により効果的であると考えられる。
6.まとめ
本実習は、理論では得られない「本質的な人体構造」の理解を深める場であった。
筋膜=ファシアの一部であるという視点は、今後の施術の在り方に大きな示唆を与える。エステティックのボディトリートメントは、「力でほぐす」から「全身の調和を整える」へとパラダイムシフトが求められていると考える。


豊林 由美子
VIアカデミー(エステティックスクール)代表
元 名古屋美容専門学校 校長
オーストラリア政府認定資格「Diploma of Beauty Therapy」
日本エステティック業協会認定講師
キャリアコンサルタント
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