ホットペッパービューティーアカデミー研究員 田中公子の『データで見る美容業界』‐5
障がいがあるお客さまとの接し方。サロンにできる、はじめの一歩
ホットペッパービューティーアカデミーでは、「誰もが美容を楽しめるサロンづくり」のヒントを提供したいという思いのもと、2025年9月より「障がいがあるお客さまへの接客」の情報発信を開始しています。
ユニバーサル対応の有識者である株式会社ミライロに監修いただき、これまでに「美容サロンにおける障がいがあるお客さまとの向き合い方」の連載記事を開始し、2025年11月には「ヘアサロン(美容室・理容室)における障がいのある方の利用実態調査」を発表しました。
今回の寄稿は、記事や調査をもとに、障がいがある方が実際のサロン利用状況やニーズを明らかにし、お客さまが安心して利用できるサロンのヒントを探ります。

文・作表 田中 公子(ホットペッパービューティーアカデミー研究員)
≪目次≫
1.いま、サロンの現場で「接し方」が求められる理由
2.社会の変化と法律の改正
3.「合理的配慮の提供」の義務化とは?
4.まずは知ることから。障がいの特性と配慮のヒント
5.サロンで困っていることは?
6.お客さまがうれしかった配慮とは?
7.安心して通えるサロンの条件とは?
1. いま、サロンの現場で「接し方」が求められる理由
近年、障がいのある方の数は増加傾向にあります。厚生労働省の調査では964.7万人と発表されており、これは人口の約7.6%に該当します。(令和4年度 厚生労働省「障害福祉分野の最近の動向」)
こうした状況の中、美容サロンの現場においても、障がいのあるお客さまをお迎えする機会は増えているのではないでしょうか。それに伴い、「障がいのあるお客さまに、どのように接したらご安心いただけるか」といった接し方について、改めて考える必要性を感じているサロンスタッフの方もいらっしゃるかもしれません。次章からは、こうした疑問を解消するためにも、知っておきたい社会的な背景や、お客さまの具体的なニーズについて詳しく見ていきましょう。
2. 社会の変化と法律の改正
社会全体、特に法律の面でも大きな変化が訪れました。「障害者差別解消法」が改正され、「合理的配慮の提供」が2024年から義務化されています。
障害者差別解消法とは、障がいを理由とする「差別」をなくすことを目指し、すべての事業者に対し、「障害を理由とする『不当な差別的取扱い』を禁止」するとともに、「負担が重すぎない範囲で、障害者の求めに応じ合理的配慮をする」法律です。
「不当な差別的取扱い」とは、障がいがあることだけを理由に、サービスの提供を拒否したり、場所や時間を制限したり、障がいのない人にはつけない条件をつけたりすることです。
そして2024年から義務化されたのが「合理的配慮の提供」です。
3. 「合理的配慮の提供」の義務化とは?
「合理的配慮の提供」とは、障がいのある方から手助けを求められた際に、「負担が重すぎない範囲で、必要な配慮や調整を行わなければならない」というルールです。美容サロンでの具体例を見てみましょう。

出典:ホットペッパービューティーアカデミー連載記事「障がいがあるお客さまとの向き合い方」(株式会社ミライロ監修)
「合理的配慮の提供」のポイントは以下の3つです。
• お客さまの「意思表示」が起点
お客さまからの「こうしてほしい」という声から始まります。(意思表示が難しい方もいるため、困っている際には、サロン側からお声がけすることも重要です。)
• 「特別な対応」ではなく「障壁を取り除く」ためのもの
他のお客さまと同じようにサービスを受けるための調整であり、「特別扱い」とは異なります。
• 「負担が重すぎない範囲」が前提
お店の状況に対して、過度な負担がかかる対応まで求められるわけではありません。
対応が難しい場合でも、ただ断るのではなく、その旨を丁寧にお伝えした上で、代わりとなる方法を一緒に考える姿勢、すなわちサロンとお客さまとの「対話」そのものが基本となります。そのためにもサロンが障がいについて知識をもっておくことが大切となるでしょう。
4. まずは知ることから。障がいの特性と配慮のヒント
まずは、さまざまな障がいの特性について、基礎知識を一緒に学んでいきましょう。

出典:ホットペッパービューティーアカデミー連載記事「障がいがあるお客さまとの向き合い方」(株式会社ミライロ監修)より抜粋・編集
障がいの特性:一人ひとりの違い まず大切な心構えは、決まった対応は存在しない、ということです。 例えば「視覚障がい」でも、全く見えない方から、光に極端に弱い方まで様々です。他の障がいも一人ひとり状態は違い、必要なサポートも異なります。 知識は「お客さまを分類するものさし」ではなく、「対話のきっかけ」なのです。
5. サロンで困っていることは?
では、障がいのある方はサロンでどのようなことに困っているのでしょうか。多くの方にとって最も身近な美容サロンであるヘアサロンの状況を見てみましょう。
<ヘアサロンを利用して困ったこと>

(出典)ホットペッパービューティーアカデミー「ヘアサロン(美容室・理容室)における障がいのある方の利用実態調査(2025年11月)」
ヘアサロン利用時に困ったこととして、「長時間同じ姿勢でいるのがつらい」(28.7%) 、「予約が取りづらい」(25.3%) 、「コミュニケーションがうまく取れなかった」(24.0%) が上位に挙がりました。また、今回の調査全体では、「バリアフリーでない」は、肢体不自由のある方のみ(n=108)を抽出すると、35.2%と平均と比べて突出して高く、物理的な環境が利用の障壁になっているケースも明らかになりました。
6. お客さまがうれしかった配慮とは?
調査では、「あったらうれしい配慮」についても聞いています 。
<ヘアサロンのシーン別「あったらうれしい配慮」>

(出典)ホットペッパービューティーアカデミー「ヘアサロン(美容室・理容室)における障がいのある方の利用実態調査(2025年11月)」
例えば、
• 予約時: 「障がいや体調に関する要望を事前に伝えたり、記入できる欄がある」(43.2%)
• カウンセリング時: 「無理に話を続けず、適度な距離感で対応してくれる」(51.6%)
• 施術時: 「話しかけすぎず、静かに過ごせるよう配慮してくれる」(56.1%)
など「特別な支援」というよりも、「要望への対応」や「心理的負担をかけない接客」を求めている姿です 。ハード面(設備)の整備よりも、「ソフト面の接客対応」や「事前の情報開示」の重要度が高いといえそうです。
フリーコメントでは
「長い施術中にでもトイレに行きやすいように、必ず「トイレ大丈夫ですか?」と度々声掛けしてくれるところがすごく嬉しい。トイレに行きやすい!」(肢体不自由)
「大きい鏡では遠くて見えないので、手鏡などをいくつか使って見えるように考えてくれた」(視覚障がい)
「わからなかった時に嫌な顔ひとつせず筆談してくれた」」(聴覚障がい)
など、具体的なコミュニケーションの工夫がうれしかったという声が寄せられています。
7. 安心して通えるサロンの条件とは?
<安心して通えるヘアサロンの条件や理想像>

(出典)ホットペッパービューティーアカデミー「ヘアサロン(美容室・理容室)における障がいのある方の利用実態調査(2025年11月)」
では、障がいがあるお客さまが「安心して通える」と感じるサロンの条件とは何でしょうか。
調査結果で最も多かったのは、「無理に話しかけられず、自分のペースで過ごせる」(62.2%)でした 。次いで、「価格やメニューがわかりやすく、安心して選べる」(55.0%) 、「自分の体調や特性を理解し、丁寧に対応してくれるスタッフがいる」(46.8%) と続きます。
ここでも、お客さまの心理的安心感をいかに作るかが重視されていることがわかります 。一方で、「設備や空間がバリアフリーで、移動しやすい」は全体では23.3% ですが 、肢体不自由のある方にとっては52.8% と最も重要な条件となっています 。また、精神障がいのある方(72.0%、n=218) にとっては、「無理に話しかけられず、自分のペースで過ごせる」ことがさらに重要視されています。聴覚障がいのある方においても75.0%と高い傾向がみられました(n=20、参考値)
また、障がいの特性によって優先順位は異なりますが 、サロン側が「配慮」の姿勢を持つこと自体は、多くのお客さまに歓迎されています。実際、「配慮があるヘアサロンを利用したい(計)」と答えた方は7割超(72.2%) に上りました。
<配慮があるヘアサロンの利用意向>

(出典)ホットペッパービューティーアカデミー「ヘアサロン(美容室・理容室)における障がいのある方の利用実態調査(2025年11月)」
「障がいがあるお客さま」と聞くと、つい「何か特別な対応をしなければ」と構えてしまうかもしれません。でも大切なのは、目の前のお客さま一人ひとりと、丁寧に向き合うことです。
この記事でご紹介お客さまの調査結果や声は、あくまで一例です。必要なサポートは、お客さま一人ひとりによって異なります。まずはご本人に希望を聞きながら、自分のお店で、負担が重すぎない範囲で、柔軟に考えてみること。その想いこそが、最高の「おもてなし」につながるはずです。
【データ出典】
ホットペッパービューティーアカデミー
「ヘアサロンにおける障がいがある方の利用実態調査」
• 調査発表日:2025年11月13日(木)
調査期間:2025年7月25日(金)~7月31日(木)
調査対象:全国/障がいのある方(障がいの特性不問)442人
調査手法:Webアンケート調査
株式会社ミライロのデジタル障害者手帳「ミライロID」(https://mirairo-id.jp/)を利用
調査URL: https://hba.beauty.hotpepper.jp/search/trade/hair/inclusive/72248/
【連載記事】
出典:ホットペッパービューティーアカデミー連載記事「障がいがあるお客さまとの向き合い方」https://hba.beauty.hotpepper.jp/check/check_cat/inclusive/
<寄稿>
田中 公子(たなか きみこ)
ホットペッパービューティーアカデミー研究員
外資系コンサルティングファームを経て、リクルート入社。2012年よりホットペッパービューティーのマーケティング・企画領域に携わり、現在はホットペッパービューティーアカデミー研究員として、美容に関する消費者行動の調査・分析、業界への提言を行っている。
これまでに発表してきた美容業界の調査は200本以上。数字に裏打ちされた洞察力と、現場やメディアでもわかりやすく語れる伝える力に定評がある。業界誌・一般誌・テレビなどメディア取材多数。セミナー登壇や研修講師としても活動中。
プライベートでは小学生2人の母。学校PTAの活動にも全力で取り組み中(2024年度、2025年度 PTA会長)。
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