草野由美子の 『エステサロン お役立ちコラム』‐11
そもそも「JIS」とは何か ~モノの規格から、サービスの標準へ~
JISとは、みんなで使う「共通のものさし」
JISは日本の国家規格で、正式には「日本産業規格」といいます。「規格」と聞くと、なんだか堅苦しく感じますよね。
簡単にいうと、関係する人たちが話し合って決めた「共通のものさし」のようなもの。大きさや品質、試験の方法、表示のしかたなどに、共通の基準を設けています。
いちばん身近なのは、乾電池でしょうか。メーカーが違っても、単3電池なら同じ機器に入りますよね。形や寸法が規格でそろっているからです。もし、メーカーごとに電池のサイズがバラバラだったら……。買うたびに、「これは家のリモコンに入るのかな?」と確認しなければなりません(笑)。
共通のものさしがあるから、作る側は目指す水準が分かる。使う側も、一つひとつ細かく確認しなくても選ぶことができる。つまり規格とは、「安心して選べる状態」を社会につくることでもあるんですね。
2019年、JISの対象がサービスにも広がりました
JISの対象は、長いあいだ鉱工業品が中心で、名称も「日本工業規格」でした。
転機となったのが、2019年7月。改正法の施行によって名称が「日本産業規格」に変わり、対象もデータやサービスなどへと広がりました。(出典:経済産業省「JIS法」、2019年7月1日施行)
背景にあるのは、社会や経済の変化です。
今の時代、価値を生み出しているのはモノづくりだけではありませんよね。サービスや仕組みそのものにも、大きな価値があります。そう考えると、サービスの品質や信頼にも「共通のものさし」が必要になってきたのは、自然な流れなのかもしれません。
形のないサービスを、どう標準化するの?
ここで、素朴な疑問が浮かびます。電池なら、寸法を測ることができます。でも、サービスには形がありません。同じ施術を受けても、感じ方は人それぞれ。では、いったい何を標準化するのでしょうか。
ここは、とても大切なところです。サービスの標準化とは、接客をマニュアル通りに画一化することではありません。担当者の技量や人柄を、均一にすることでもないんですね。
目指しているのは、「ここまでは満たされています」と確認できる一定の水準を、言葉にして共有すること。
例えば、
・契約内容を、書面などで明確に示す
・広告などの表示を、事実に基づいて行う
・衛生管理を、基準に沿って整える
・施術前に、お客様の状態を確認する
こうして見ると、「そんなの当たり前じゃない?」と思われるかもしれません。
ところが、その“当たり前”ほど、サロンや担当者によって差が出やすいものなんですね。個人の頑張りや経験だけに任せるのではなく、仕組みとして整えておく。共通の基準を持つ意味は、ここにあります。
標準化がもたらす3つの視点
では、サービスに標準があることで、何が変わるのでしょう。
まず、お客様にとって。
サロンを選ぶときの判断材料の一つになります。目には見えにくいサービスの質を、事前に確かめるための手がかりですね。
次に、サロンにとって。
自分たちのサービスを客観的に見直すことができます。
「ここはできている」
「ここは、もう少し整えた方がいい」
同じ基準に照らしてみることで、両方が見えてきます。
そして、業界にとって。
社会からの信頼を積み上げていく共通の土台になります。
業界として一定の水準を示すことは、お客様を守るだけではありません。きちんと取り組んでいる事業者を守ることにもつながっていくんですね。
では、エステティックの場合、「安心して選べる」ためには何が必要なのでしょうか。ここで一度、エステティックが本来「何を提供する仕事なのか」に戻って考えてみましょう。
エステティックの価値は「三面美容」にあります
その土台にあるのが、エステティック業界に古くから受け継がれてきた「三面美容」という考え方です。
人の美しさと健康を、「外面的ケア」「内面的ケア」「精神的ケア」この3つの面から総合的に考えていくものです。
これは、最近になって生まれた新しい考え方ではありません。エステティシャン教育の場でも、サロンの現場でも、長い年月をかけて大切に受け継がれてきた、エステティックの土台となる考え方です。
まず「外面的ケア」。
お悩みに合わせたサロンでのトリートメントを中心に、肌に合った化粧品の選び方や使い方など、外側からお客様の美しさを支えていきます。
次に「内面的ケア」。
食事のバランスや水分摂取、運動、入浴、睡眠など、毎日の生活習慣にも目を向けていきます。
肌や身体の状態は、日々の暮らしと切り離して考えることはできません。
「最近、よく眠れていますか?」
「お食事の時間は不規則になっていませんか?」
カウンセリングでこうしたことを伺うのも、外面だけでは見えてこない背景を知るためなんですね。
そして「精神的ケア」。
お客様から、「ここに来るとホッとする」「話を聴いてもらうだけで、気持ちが少し軽くなる」と言われたことはありませんか?
「きれいになりたい」という言葉の奥に、
「もう少し自信を持ちたい」
「以前の自分を取り戻したい」
そんな気持ちが隠れていることもあります。
答えを押しつけるのではなく、お客様自身の言葉に耳を傾ける。
私は、この姿勢もエステティシャンにとって、とても大切なものだと思っています。
つまりエステティックは、外面・内面・精神面をバラバラに見るのではなく、ひとりのお客様として、まるごと向き合っていく仕事なんですね。
もちろん、忘れてはいけない線引きもあります。
エステティックは医療行為ではありません。症状の診断や治療を行うものではなく、気になる症状がある場合には、医療機関などへの相談をおすすめする。
自分たちが「できること」と「できないこと」をきちんと理解しておくことも、エステティシャンとして大切な専門性の一つです。
そして、もう一つ難しいのが、外面は目に見えても、内面や精神面は外から見えにくいということ。
お客様は何を大切にしているのか。どこまで話してよいと感じているのか。
こちらが勝手に決めることはできません。
だからこそ、「説明する」「確認する」「記録する」といった基本を、共通の基準として整えておく必要があります。三面美容を大切にするサロンだからこそ、私は、基準を持つことにも大きな意味があると思っています。
認証制度とエステティックJIS、信頼を「見える形」に
実はエステティックには、信頼を「見える形」にする仕組みが、すでにあります。「エステティックサロン認証制度」です。始まりは2007年。経済産業省が示した「エステティックサロンの認証制度の在り方」に基づいてスタートしました。
サロンが自ら「うちは安心・安全です」と言うのではなく、第三者の基準によって、適正な契約・取引や、安全なサービス提供に必要な体制などを審査する制度です。
お客様にとっては、安心してサロンを選ぶための一つの目安に。サロンにとっては、自分たちの取り組みを社会に示す「信頼の看板」になります。(出典:内閣府 消費者委員会「第426回消費者委員会本会議 資料3-2」、2024年3月18日/日本エステティック機構)
そして現在、この「エステティックサロン認証基準」をベースに、エステティックサービスの品質や信頼性をさらに高めることを目指して、2023年度から開発が進められているのが「エステティックJIS」です。
日本エステティック機構を中心に業界団体などが参画し、経済産業省の受託事業として開発が進められています。
現在も開発中で、2026年度の発行を目指して検討が進められています。(出典:特定非営利活動法人 日本エステティック機構「エステティック産業に関するJIS開発の概要」、2024年7月/同機構公表情報)
将来的には、お客様がサロンを選ぶ際に、そのサロンの信頼性を判断するための一つの目安として活用されていくことが期待されています。私は、そんな未来を楽しみにしています。認証制度とJISは同じものではありませんが、どちらもエステティックへの信頼を「見える形」にしていくための大切な仕組みです。
標準化は、個性を損なうものではありません
「基準ができたら、どのサロンも同じになってしまうのでは?」経営者の方から、そんなご心配を伺うことがあります。でも、私はむしろ逆だと思っています。
標準化は「画一化」ではなく、土台を整えること。家づくりと同じです。しっかりした土台があるからこそ、間取りも内装も自由に選べますよね。サロンも同じ。
安全や衛生、契約、顧客対応など、守るべき基本が整っているからこそ、その上で技術や接客、コンセプト、サロンオーナーの想いといった「そのサロンらしさ」を思いきり発揮できるのではないでしょうか。
法令・基準の遵守は、お客様の安心と事業を守ること
法令や基準というと、「また守るものが増えるの?」と、少し負担に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
でも、遵守することは、お客様の安心を守ること。
そして同時に、自分のサロンを守ることでもあります。
「説明が足りなかった」
「契約内容があいまいだった」
そんな小さな行き違いが、大きなトラブルにつながることもあります。
最初から基準に沿って整えておけば、そのリスクを減らし、安心して事業を続けていくための基盤になります。規格や基準は、サロンを縛るためにあるのではなく、迷ったときに戻れる“ものさし”にもなるんですね。
特に小規模・個人サロンにとっても、エステティックJISは、これからサロン運営を見直す際の一つの基準になっていくのではないかと思います。
施術も接客もする。
集客や売上も考える。
契約や衛生管理もする。
個人サロンの経営者は、本当に一人で何役もこなしていますよね。
だからこそ、「何を、どこまで整えておけばいいの?」という共通の目安があることは、むしろ心強いのではないでしょうか。規模が小さいからこそ、「きちんとしていること」をお客様に伝えられる仕組みは、これからのサロン経営で大きな力になると私は考えています。
エステティックJISは、2026年度の発行を目指して検討が進められています。正式な規格が発行されてから、「さて、何をすればいいの?」と慌てるのではなく、今から自分のサロンを一つずつ見直しておく。それだけでも、十分な準備になります。
次回は、エステティックJISでは具体的にどのようなことが求められていくのか、もう少し詳しく見ていきましょう。

草野由美子
ゆうプランド株式会社 代表取締役
JESMA日本エステティックサロン経営学院 学院長
日本エステティック機構
エステティックサロン認証促進アドバイザー
CIDESCOインターナショナルエステティシャン
日本エステティック業協会 教育委員会 委員
小規模・個人サロン向け
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